最終更新日: 2024年2月15日 by 産婦人科オンライン
羊水検査は胎児の感染症検査や肺の成熟の確認のために行われることもありますが、最も多く行われるのは染色体検査を目的としたものです。
従来、胎児の染色体異常に関する出生前検査といえばクアトロ・トリプルマーカーなどの(母体の)血液検査と羊水検査でした。2013年にNIPT(Non-Invasive Prenatal genetic Testing;非侵襲的出生前遺伝学的検査、「新型出生前診断」とも呼ばれる)が日本でも利用可能となり、更にその適応が拡大してからは様相が一変しました。
今回は、染色体異常に関する羊水検査の概要とともに、他の検査、なかでもNIPTとの違いを中心に羊水検査の特徴について述べたいと思います。
NIPTはスクリーニング、羊水検査は確定的検査
あらゆる検査において、その結果の解釈の仕方を知る必要があります。
検査の結果が「陽性」「陰性」なのと、実際に染色体異常が「ある」「ない」には差があります。あらゆる検査で、実際には異常が「ある」にもかかわらず「陰性」という結果がでたり、あるいは異常が「ない」にもかかわらず「陽性」と出ることがあります。
NIPTはスクリーニング検査ですが、かなりの正確さをもって染色体異常の有無の判断が可能です。特に、「陰性」と結果が帰ってきたときには99%以上の確率で検査でわかる染色体異常は「ない」とされています。
逆にNIPTで「陽性」と出た場合には、実際に染色体異常が「ある」可能性はお母さんの年齢によって左右され、若いほど「陽性」がでたのに実際には異常が「ない」可能性が高くなります。
羊水検査においては、「陰性」の結果は染色体異常がないこと、「陽性」の結果は染色体異常があることをほぼ100%の精度で示します。そのため、NIPTが「陽性」の場合には、実際に異常があるのかどうかの確定のため、羊水検査を受ける必要性が生じます。
NIPTは非侵襲的検査、羊水検査は侵襲的検査
NIPTが母体からの採血のみで済むのに対し、羊水検査は超音波のガイド下に、母体のお腹から針を刺し、子宮の中に針を進め、羊水を採取する必要があります。概ね安全とされていますが、流産の可能性が1/300-1/500と言われています。
また、両検査は自費診療となりますので、保険が適用されないことも知っておく必要があります。概ね10万円前後あるいはそれ以上の費用が掛かることを覚悟しておく必要があります。
なお、出生前検査に関しては、下記の記事も参考になさってください。
「出生前診断を考えるときに必ずわかっていてほしいこと(1)」
「出生前診断を考えるときに必ずわかっていてほしいこと(2)−母体血胎児染色体検査(NIPT)について」
羊水検査の方法や費用に関しては、こちらをご覧ください。
検査を受ける目的、時期にも注意
NIPTが利用可能となって以降、「いきなり」羊水検査を受ける人は減ったのではないでしょうか。むしろNIPTで陽性だった場合に、確定診断を得ることを目的として検査を受ける人が増えたのではないかと考えられます。
NIPTも羊水検査もそうですが、検査を受ける目的をある程度明確にしておかなければ、想定外の結果(主に「陽性」)が返ってきたときに戸惑うことになります。染色体異常がある場合には、中絶を選択するのか、あるいは検査の結果にかかわらず産む意思はあるが、心の準備をしておきたいのか。「陰性」であることを確認し、安心を得たいのか。このようなことを事前に考えておく必要があります。
また、染色体異常がある場合に中絶を選択するときには、検査を受ける時期も考慮する必要があります。日本においては法律上、妊娠22週以降の中絶は不可能です。羊水検査の場合、結果が帰ってくるまで2-3週間かかることが想定されますので、これらを勘案しながらNIPTあるいは羊水検査を受ける時期を考慮する必要があります。
羊水検査を含む出生前診断に関しては、倫理的側面への考慮が必要であるため、なかなか相談しにくい点はあると思います。我々医療従事者は患者さんの決定を支援するべく存在しますが、決定に際し情報の偏在や不足があると、正しい意思決定をおこなうことができなくなります。可能な限りそのようなギャップを埋めたいと思いますので、不明な点はオンライン相談を利用頂ければ嬉しいです。
<参考文献>
Ghi T, et al.: International Society of Ultrasound in Obstetrics and Gynecology (ISUOG):
ISUOG Practice Guidelines: invasive procedures for prenatal diagnosis. Ultrasound Obstet
Gynecol 2016; 48: 256―268 PMID: 27485589( Guideline)
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(産婦人科医 竹中裕)