妊娠中や産後の歯科治療の注意点

「妊娠中・授乳中に歯科治療を受けても大丈夫ですか?」というご相談を、多くの妊婦さんや産後間もない女性からお受けします。それでは、妊娠中・産後に歯科治療を受けるときはどのような点に注意したらよいでしょうか?産婦人科医師の立場から、是非知ってもらいたい内容をまとめました。

01.妊娠中はホルモンの影響で歯肉炎や歯周病、虫歯が起こりやすいことが知られています

妊娠中は、エストロゲンというホルモンが高値になることにより、口内環境が変化します。また唾液の量や性質や状態が変化したり、つわり症状のために歯磨きをすることが難しくなったりなどの生活変化も影響して、虫歯や歯周病にかかりやすくなるといわれています。

妊娠中の歯周病は、早産・低体重児出産・妊娠高血圧腎症のリスクを上昇させることが知られているため、妊娠中の口腔ケアや歯科検診の受診が推奨されています。

02. つわりによる気分不快や仰臥位低血圧症候群などが起こることを念頭に置き、妊娠中期頃の体調がすぐれている時期に治療を受けることをお勧めします

妊娠中のどの時期にも歯科受診は可能です。ただし、一般的に妊娠15週頃まではつわり症状に悩まされることが多く、また、妊娠後期はお腹が大きくなり治療中に仰臥位低血圧症候群(ぎょうがいていけつあつしょうこうぐん)*を起こすこともあります。そのため、つわりが終わってからお腹が大きくなってくるまでの期間(妊娠中期早め)の歯科受診がお勧めです。

また、妊娠後期の治療の際は、頭を少し起こしたり、左側を下に横になるなどの体勢に配慮することで仰臥位低血圧症候群を予防ができます。

*仰臥位低血圧症候群:長時間仰向けに寝ることで、下大静脈という大きな血管が子宮に圧迫されることにより、一時的に低血圧を起こして、悪心・嘔吐、冷汗、顔面蒼白などのショック症状が現れること。

03.レントゲン、局所麻酔、鎮痛剤、抗菌薬の使用に関しては、少しの配慮で妊娠中・授乳中ともに問題なく検査や治療を受けることが可能です

歯科でのレントゲン撮影は放射線量がとても少ないため、妊娠中でも問題はありません。治療の際の局所麻酔に関しても口腔周囲のみに作用するものであり、胎児への影響はないと考えられているので、治療において必要な場合は控える必要はありません。

鎮痛剤は、アセトアミノフェンであれば妊娠中のどの時期でも比較的安全に使用が可能です。非ステロイド系消炎鎮痛剤(ロキソニンなど)の使用は慎重になる必要があります。胎児の心臓血管系に影響を与える恐れがあるため、妊娠28週以降は使用を控えると定められています。母乳へ移行する量はとても少ないため、授乳中はアセトアミノフェン・非ステロイド系消炎鎮痛剤のどちらも使用可能です。

抗菌薬に関しては、妊娠中・授乳中ともに、セフェム系、ペニシリン系、マクロライド系とよばれる種類が使われることがあります。感染のおそれがある場合等は、使用が可能です。

<参考文献>

日本歯科医師会. 妊娠時の歯やお口のケア.

国立成育医療センター. 妊娠と薬に関する教育教材.

さらに詳しく聞いてみたい方はぜひ産婦人科オンラインの医師にご相談ください。

産婦人科オンラインはこれからも妊娠中・産後、そして女性の健康に関する不安や疑問を解決するために情報を発信していきます。

(産婦人科医 青栁百合

SNSでシェア