妊娠中期〜後期の怖い合併症:妊娠高血圧症候群

今回は、妊娠中に誰にでも起こる可能性があり、起こってしまうととても影響の大きい合併症を紹介します。これまでどんなに順調な妊娠生活を送っていても、妊娠後期にかけて発症する可能性がある疾患をしっかりと理解しましょう。そして、徴候に早く気づき、少しでもトラブルを回避することが大切です。

疾患の定義を詳しく

妊娠高血圧症候群は、以前は妊娠中毒症と呼ばれていました。ところが、海外で使われていた用語と噛み合わない部分が出てきたため、2004-2005年に名称等が変更となり、現在の妊娠高血圧症候群になりました。詳しい定義は、「妊娠20週以降、分娩後12週まで高血圧がみられる場合、または高血圧に蛋白尿を伴う場合のいずれか」とされています。2017年に改訂が行われ、妊娠前から高血圧を合併していた女性も、この疾患名に含まれるようになりました。
ご両親の世代では、妊娠中毒症という言葉なら知っている、という方々も少なくないはずです。ただ、名称は違っても、その怖さは昔から変わりません。

特に妊娠高血圧症候群を発症しやすい妊婦さんは?

日本妊娠高血圧学会から示されているものとして、高年齢、肥満、内科的合併症のある妊婦(高血圧、腎疾患、糖尿病など)さん、初産婦さん、前回の妊娠時に妊娠高血圧症候群にかかった妊婦さん、前回の妊娠からの期間が5年以上経過している妊婦さん、多胎妊娠(双子や三つ子など)、妊娠がわかって初診した時の血圧が高い妊婦さんなどが挙げられています。いずれかに当てはまる方は、特に注意して過ごしていただくことを推奨します。

妊娠後期に近づくほど、発症確率が上昇

多くの場合は妊娠中に初めて高血圧が出現しますが、妊娠後期に近づくほど発症する確率が高くなると考えられています。また、これまで健康であった女性にも起こりうるものです。誰にでも起こりえる疾患のため、日頃からご自身の体調に注意していきましょう。

高血圧に加え、他の合併症を引き起こす可能性も

妊娠高血圧症候群の怖いところは、ただ血圧が上がることではなく、様々な更なる合併症を引き起こす可能性があるところです。例えば、
・子宮内での赤ちゃんの成長が不良となって体重が正常に増えてくれない(=胎児発育不全)
・まだ赤ちゃんが子宮内にいるのに、胎盤が先に剥がれてしまうことで母子ともに生命の危険にさらされる(=胎盤早期剥離)
・急激に血圧が上がることで、お母さんの脳血管が破れて出血してしまう(=脳出血)
・脳のむくみなどが影響することで起きてしまう痙攣発作(=子癇発作)
などが挙げられます。
もちろん、全員にこれらの合併症が必ず起こるわけではありません。これらの合併症を自分自身で判断することは困難ですが、いずれも妊娠高血圧症候群を早く見つけることで予防ができたり、早期に対応できる可能性が高まります。

急な頭痛や胃痛、手足のむくみに注意

では、お母さん自身や家族が気づくことのできる妊娠高血圧症候群の徴候にはどのようなものがあるのでしょうか。例えば、
・頭重感や頭痛
・上腹部痛・胃痛
・呼吸困難感
・視野・視覚異常
・急に出現・悪化した手足のむくみ
などは、いずれも妊娠高血圧症候群のサインである可能性があります。もちろん、軽い頭痛は多くの妊婦さんで経験されますし、大きくなる子宮の圧迫によって息苦しい感覚が一時的に出現することもあります。しかし、「まぁ大丈夫だろう」と判断してしまうよりも、心配であれば健診先の病院で相談してみて下さい。

妊娠高血圧症候群の治療法や予防法は?

妊娠高血圧症候群の治療は、原則安静と入院による慎重な経過観察が中心となります。降圧薬は一時しのぎに過ぎず、根本治療にはならないことがわかっています。また、薬によって急激に血圧を下げると赤ちゃんの状態が悪くなることがあり、降圧薬を使う場合には医師が慎重に判断します。
お母さんや赤ちゃんにとって妊娠を続けることが良くないと考えられた場合には、たとえ早産期でも出産、つまり妊娠を終わらせる方針にすることがあります。通常、出産後はお母さんの症状が速やかに良くなります。ただし出産前に重症化した方は、出産後も高血圧や蛋白尿が持続することがあります。
一方で、現時点で確実な予防法は解明されていません。水分摂取制限や利尿剤はお母さんの血栓症のリスクを高めること、また過度の塩分制限の効果は証明されていないことから推奨されていません。なお、過去に妊娠高血圧症候群の経験があり、次の妊娠でも再発の可能性が高いと考えられる場合には、低容量アスピリンの服用が検討されることもありますが、必ずかかりつけの医師と相談しながら管理を受けて下さい。

今回は、怖い妊娠中の合併症として妊娠高血圧症候群を取り上げました。妊娠中に不安を抱えて精神的負担を増やすことは避けたいところですが、「誰にでも起きる可能性があり、起きてしまうと怖い合併症」は妊婦さん全員が知っておくべきだと思います。ぜひ、パートナーとも一緒に理解することで、日常生活での気になる症状や些細な変化を見逃さないようにしてくださいね。


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(産婦人科医 重見大介