陣痛促進を産婦人科医が解説〜人の体験談に惑わされないで

出産予定日を超えても陣痛がこない、陣痛開始前に破水してしまった、など様々な理由から、分娩誘発や陣痛促進が行われることがあります。ただ、病院からの説明をいきなり聞いてもなかなかわからないこともあるかと思います。
今回は、陣痛が来たけどその強さが不十分な場合に実施されることがある「陣痛促進」について、詳しく説明します。

陣痛促進は、薬で陣痛を強めること

陣痛促進とは、「産気づいた後に、陣痛が不十分な場合に薬で陣痛を強めること」を意味します。なので、陣痛促進を行うことになる妊婦さんは、陣痛が来たものの、その強さや頻度がなかなか順調に強くなっていかない方になります。微弱陣痛や遷延分娩と呼ばれる状態が多いです。

他に、高血圧合併妊娠、妊娠高血圧症候群、心臓の病気をお持ちの方など、あまり長時間の陣痛による負担をかけたくない場合や、無痛分娩に併用した形で使用される場合もあります。

使用される薬は主に2種類

日本で使用される陣痛促進薬には2種類あります。

(1)オキシトシン
最も多く使われる薬で、点滴薬です。成分はお母さんの脳から分泌されるホルモンと同じものですので、この薬自体が母子に悪影響を及ぼすわけではありません。ただし、副作用や有害事象がないわけではありません。使用の際はガイドラインに従って厳重な管理のもとで調整されます。
(2)プロスタグランジンF2α
こちらも点滴薬です。プロスタグランジンも体内に存在する成分ですが、気管支喘息や心臓の病気、高血圧のある方、帝王切開のご経験がある方には通常用いられません。

なお、この2つの薬は効き方に個人差があるため、他の人が効いたかどうかの情報はあてになりません。必ず、担当医の説明をしっかりと確認してください。

陣痛促進中はガイドラインに沿った厳重な管理がされます

産科医が参照するガイドライン等には、陣痛促進薬の適切な使用方法について記載があります。陣痛促進を行う際の注意事項としては、
・お母さんの血圧と心拍数の定期的な測定
・継続的な胎児心拍モニタリング
・投与開始時や増量時の間隔や量の制限
などがあり、これは日本に限らず世界的に遵守するよう推奨されています。
これらの決まりを厳格に守ることで、陣痛促進薬を使用する際に心配される合併症である「過強陣痛」や「子宮破裂」のリスクは上がらないとされています。

ただし、お産の進行中はどんな場合であっても母体や胎児の状態が急変することがあり、これは陣痛促進薬の投与とは無関係なこともあります。何が原因にせよ、その場で最善の対処ができるよう、産婦人科医や助産師は常に準備をしています。

今回は陣痛促進薬について詳しく解説しました。
産婦人科医は、理由もないのに陣痛促進薬をむやみに使うことはありません。お産の状況や母子の状態を総合的に考え、薬を使用するかどうか、薬をどのように使用するかの判断をしています。
ただ、陣痛促進薬の説明を受けるときは時間的・精神的余裕がなく、あまり理解できないままに陣痛促進の処置が始まってしまうことも少なくありません。
また、インターネットなどには「陣痛促進薬には赤ちゃんへ大きな悪い影響がある」と根拠もなく書かれている記事も見受けられます。
あとで後悔しないためにも、余裕のあるうちに、ご家族とともにこういった薬への予備知識を持っておくことをお勧めします。

*参考文献
ACOG FAQ. Labor Induction.
Mayo clinic. Labor induction.


さらに詳しく聞いてみたい方はぜひ産婦人科オンラインの医師・助産師にご相談ください。

産婦人科オンラインはこれからも妊娠中・産後の不安や疑問を解決するために情報を発信していきます。

(産婦人科医 重見大介

SNSでシェア