最終更新日: 2024年2月15日 by 産婦人科オンライン
妊娠中に起こる可能性がある合併症は数多くありますが、その中でもお母さんと赤ちゃんの両方にとって非常に危険なものとして、常位胎盤早期剥離(じょういたいばんそうきはくり)という疾患があります。この疾患は、産まれた赤ちゃんの後遺症にも大きく影響します。発症してから病院へ到着し、対応するまでの時間が1分でも早いほど、母児へのリスクを減らすことができると考えられています。
症状などをきちんと知っておき、いざという時に対応できるよう、詳しく解説します。
母体死亡や赤ちゃんの脳性麻痺の主原因と考えられている怖い合併症
まず、常位胎盤早期剥離がどのような疾患なのか説明します。
通常の出産では、胎児が子宮の中から出てきた後に、胎盤が剥がれて出てきます。ところが、胎児が子宮から出てくる前に、胎盤が先に剥がれてしまうことがあり、これを常位胎盤早期剥離と呼びます。
胎盤は、へその緒を介して、お母さんの体(子宮)と赤ちゃんを繋いでおり、栄養分や酸素をやりとりする大切な役目を持っています。まだ胎児が子宮の中にいるのに胎盤が先に剥がれてしまうことは、生命の危険が非常に大きい状況と言えます。
発生頻度は稀ですが影響は甚大
発生頻度は全分娩の0.5〜1%程度で、そう多く発生するものではありません。しかし、常位胎盤早期剥離になった半数以上で周産期死亡(胎児または新生児期の赤ちゃんの死亡)が起きてしまうと報告されており、妊産婦死亡の原因ともなる重大な疾患です。
妊娠32週以降に発生しやすいとされていますが、妊娠全期間を通じて発生する可能性があります。
発症リスクを上げる誘因は大きく8つ
ただ、常位胎盤早期剥離に対する効果的な予防法はいまだに確立されておらず、予知する方法もわかっていません。しかし、これまでの研究から、発症を誘引するような原因はいくつかわかってきています。これらの発症誘因をきちんと理解し、日頃からおかしな症状が起きないか意識しておくことは、早期発見・早期対応に大切です。
- 前回までの妊娠で常位胎盤早期剥離を経験
- 妊娠高血圧症候群(もともと高血圧の場合も含む)
- 体外受精・胚移植での妊娠
- 腹部外傷(交通事故や転倒による打撲など)
- 喫煙(ニコチン)
- 早産、切迫早産
- 子宮筋腫
- 絨毛膜羊膜炎(子宮内感染)
喫煙は自身でも減らせるリスクの一つです。 なお、常位胎盤早期剥離の30%〜50%程度は妊娠高血圧症候群を合併していたという研究報告もあります。高血圧の妊婦さんは、特にリスクが高いことを認識しておきましょう。
今回は、妊娠中に起こる合併症の中で最も怖い疾患の一つである常位胎盤早期剥離について解説しました。読んでいて不安な気持ちが強まってしまったかもしれませんね。でも、実際に起きる確率は全分娩の0.5~1%とそれほど高くはありません。
また、ここで書いた内容を知っておけば、いざという時に症状を我慢せず病院に連絡することができ、1分でも早い対応がなされれば、救える赤ちゃんが増えると信じています。ぜひ、頭の隅っこに置いておいてくださいね。
常位胎盤早期剥離の症状や治療についてはこちらの記事をご覧ください。
「妊娠後期の怖い合併症:常位胎盤早期剥離の症状と治療」
*参考文献
・出産に際して知っておきたいこと. 常位胎盤早期剥離について. (国立成育医療研究センター)
・Mayo clinic. Placental abruption.
さらに詳しく聞いてみたい方はぜひ産婦人科オンラインの医師にご相談ください。
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(産婦人科医 重見大介)