不妊治療で注意が必要な「卵巣過剰刺激症候群」

不妊治療中の患者さんは、治療が上手くいくかどうか、妊娠できるかどうか、日々思い悩みながら過ごしていることと思います。我々医療従事者も、上手く妊娠してくれることを願って治療を行っていることは言うまでもありませんが、その裏で治療の副作用についても気を配っています。

今回は、不妊治療中に特有の病気である「卵巣過剰刺激症候群(OHSS: Ovarian Hyperstimulation Syndrome)」について解説したいと思います。

排卵誘発を行っている患者さんならではの病気

不妊治療の一つである「排卵誘発」には、飲み薬である「クロミッド」や注射薬である「FSH」「HMG」を使用する方法があります。体外受精の一環としてこれらの薬を使用することもあります。

体外受精を予定している患者さんの場合には、出来るだけ多くの卵胞を育てたいため、注射薬を使用して比較的強力な排卵誘発を行う場合も少なくありません。育った卵胞の数が多ければ多いほど、排卵後(体外受精の場合には採卵後)にOHSSを発症する可能性が高くなります。

他方で、排卵誘発を行っていない自然妊娠の場合にOHSSが起こることは極めてまれとされています。

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS: Polycystic Ovary Syndorme)と診断されている方は要注意

PCOSの患者さんは、自分では排卵が苦手でも、卵巣に(小)卵胞自体は多数存在していることから、刺激に反応して多数の卵胞が育ってくることがあります。このような場合は要注意です。

また、その周期で妊娠が成立した場合や、排卵の刺激のために「hCG」と呼ばれるホルモンを投与した場合も要注意とされています。

症状はお腹の張り、重症だと呼吸困難などの症状が出ることも

OHSSが起こる詳しい機序は、未だ解明されていません。

症状としては、お腹に水が溜まること(腹水)によりお腹が張ると同時に、血管の中では脱水が進むとされています。重症になると、大量の腹水が溜まったり、胸にまで水が溜まって呼吸困難が生じることもあります。

現在では、以前に比べ医療者のOHSSに対する危機意識が高まってきたため、想定外に卵胞が育ってきた場合には、その周期での妊娠は避ける様に説明をします。また体外受精の場合にも採卵後は全ての胚を凍結し、その周期には胚移植を行わないなどの工夫で重症のOHSSを予防しています。

治療は安静、重症例では入院して腹水を抜いたり点滴が必要になることも

OHSSは、排卵後(あるいは採卵後)数日して発症します。

軽症の場合、発症後数日間は不快な症状を我慢しながら安静に過ごす必要がありますが、月経が来るとともに症状は軽快することがほとんどです。

重症の場合には、血管内外の水分の管理が必要となることがあります。症状の緩和のために腹水を抜き、他方で脱水管理のために点滴を行うなど、入院治療が必要になることがあります。

OHSSは、普段聞きなれない病名だと思います。

不妊治療、特に排卵誘発を行っている方は、卵胞が育ってくるかどうかに目が向きがちですが、OHSSに関しても多少の知識は持っておくと良いかもしれません。

<参考文献>

Royal College of Obstetricians and Gynaecologists. “The Management of Ovarian Hyperstimulation Syndrome (Green-top Guideline No. 5)”

医薬品医療機器総合機構(PMDA). 不妊治療に用いられる医薬品による 卵巣過剰刺激症候群について


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(産婦人科医 竹中裕