最終更新日: 2024年2月15日 by 産婦人科オンライン
切迫早産という言葉を耳にされたことのある方は、少なくないのではないでしょうか。
日本では早産率が世界トップクラスに低い水準ですが、それでも約20人に1人が早産となっています。
一方で、ネット上には様々な情報が溢れ、早産や切迫早産に関する適切な認識が広がっていないことも事実です。
今回は、誰にでも起こりうる切迫早産で用いられる、具体的な治療薬を解説します。
黄体ホルモン療法(プロゲステロン)
海外では、子宮頸管短縮や自然早産の経験がある妊婦さんへ、黄体ホルモンを投与(主に腟への錠剤挿入)することによる早産予防効果が報告されています。
一方で、日本国内で実施された大規模な研究はまだなく、腟内への錠剤も日本では未承認です。ただ、同様の成分の注射薬があり、これを筋肉注射する治療を実施する医療機関もあります。ただし、海外のものとは投与量が異なること、剤型が違うことから、本当に切迫早産予防効果があるかは明確ではありません。
それでも、研究論文をよく検討した上で、産婦人科医の中では「注射剤でも有効性が期待できる」という意見が多いように感じます。
子宮収縮抑制薬
内服薬や点滴治療として、子宮収縮抑制薬の「塩酸リトドリン」が使用される場合があります。
まず、実は内服薬について、切迫早産予防効果は科学的に確立されていません。欧米では副作用の懸念もあるためそもそも国からの承認が下りていないものです。日本では、患者さんの症状によってケースバイケースで処方されることがありますが、自分にとって本当に必要かどうか、主治医とよく相談してみましょう。
点滴についても欧米と日本では考え方が大きく異なります。まず、欧米では基本的に2日間以内の投与しかしていません。なぜなら、それ以上投与しても、早産を予防する効果が証明されていないからです。また、長期間の入院と薬剤投与による合併症や筋力低下も懸念されます。最近では日本でも、何週間にも渡る長期間の投与を行わない方針としている病院が増えてきています。
ただ、未熟児に対応できる大病院が近くにない地域などでは、どうしてもケースバイケースで長期の投与が行われることもあるのが実際のところです。
ステロイド剤注射
重症の切迫早産(妊娠34週未満での早産が予想されるなど)の場合に、お母さんへステロイド剤の注射が行われることがあります。これは、薬剤が胎盤を通じて未熟な胎児へ移行することで、産まれた後の呼吸障害を減らしたり、神経系の発達を改善させる効果があることがわかっています。
今回は、切迫早産の治療薬について詳しく説明しました。自身や家族でも適切な知識を持ち、主治医の先生と充分に相談して治療方針を検討していくことが、納得のいく治療を受ける第一歩です。
早産についてはこちらの記事もご覧ください。
「早産について知っておくべき3つのこと」
「切迫早産の重症度別対処法」
*参考文献
・Blencowe H, Cousens S, Chou D, Oestergaard M, Say L, Moller AB, et al. Born too soon: the global epidemiology of 15 million preterm births. Reprod Health. 2013;10:S2.
・Walker KF, Thornton JG. Tocolysis and preterm labour. Lancet. 2016;387:2068–70.
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(産婦人科医 重見大介)