最終更新日: 2024年2月15日 by 産婦人科オンライン
骨盤臓器脱(子宮脱、膀胱瘤など)はとても多くの女性にみられる疾患です。しかし、あまりよく知られておらず、病院を受診することの恥ずかしさなどにより、適切な治療がいきわたっていない病気の一つです。
産婦人科医の立場から、皆様に知っていただきたい知識や対処法についてまとめました。
骨盤臓器脱とは、子宮・膀胱・腸などが、腟内に出てきてしまう病気です
骨盤内臓器(子宮、膀胱、直腸など)は、筋肉、靭帯、筋膜で構成された骨盤底筋によって支えられています。骨盤臓器脱は、「腟のヘルニア」とも呼ばれ、骨盤底筋の組織が弱くなり、腟内に骨盤内臓器が出てきてしまう病気です。その中でも膀胱が下垂してしまう膀胱瘤(ぼうこうりゅう)が最も多く、その次が子宮脱です。
初期の症状としては、太ももの間に物が挟まったような違和感や不快感を訴える方が多く、悪化すると排尿障害(思うように尿が出せないなど)や排便困難、性機能障害(性行為に支障が出てくる)なども起こるようになります。腟外にまで臓器が脱出すると、下着との摩擦による痛みや出血、歩行困難になるなど日常生活に大きな影響がでることがあります。
骨盤臓器脱の主な原因は「出産」ですが、それだけではありません
出産は大きな要因ですが、これ以外にも喘息、慢性的な立ち仕事、便秘、肥満、加齢、閉経(エストロゲンの低下)などが骨盤臓器脱の発生に関連します。また、子宮筋腫などで子宮摘出術を受けたことのある人が発症することも少なくありません。
日本では骨盤臓器脱の認知度が低く、実際に症状があっても、病気と気付かずに放っておいてしまう人もいます。また、医療機関を訪れたくても恥ずかしいなどの理由で受診せず、1人悩んでしまうケースが多いと言われています。
上記の理由などにより国内では正確なデータはありませんが、米国や北欧では全成人女性の3人に1人が罹患しているとのデータがあり、日本でも同様に隠れた患者さんが多いのではないか、と考えられています。
骨盤臓器脱の治療には、保存的治療と手術療法があります
まず予防法としては、骨盤底筋体操、慢性的な便秘や咳の治療、適正な体重の維持を心がけることなどが重要です。
治療については、ご自身の年齢や身体の状態、骨盤臓器脱の状態や、生活状況などに応じて適切な方法を選択します。軽度な骨盤臓器脱の場合は治療せずに経過をみること(保存的治療)もありますが、不快感が強く、日常生活に支障がでるほどの症状がある場合は、ペッサリーの挿入、あるいは手術を行う必要があります。
ペッサリーとはドーナツ状のリングで、ほとんどの製品がシリコン製のため人体には無害です。これを腟の中に入れ2~3ヶ月毎に病院で腟内の洗浄・ペッサリー交換を行います。簡便なためよく行われている治療法ですが、ペッサリー周辺に感染が起こり、おりものが増加したり、腟粘膜が傷付き少量の出血をすることもあります。また腟の形状、大きさなどからリング自体がうまく挿入できないケースも少なくありません。
これらの理由によりペッサリーを挿入できない場合は、手術を検討することになります。手術方法については以下のウェブサイトもご参照ください。
・日本骨盤臓器脱手術学会ウェブサイト
適切な診断と治療が大切になりますので、症状がある時はかかりつけ医に相談するようにしましょう。
*参考文献
・ACOG. FAQ. Pelvic Organ Prolapse.
・NHS. Overview – Pelvic organ prolapse.
さらに詳しく聞いてみたい方はぜひ産婦人科オンラインの医師、助産師にご相談ください。
産婦人科オンラインはこれからも妊娠中・産後、そして女性の健康に関する不安や疑問を解決するために情報を発信していきます。
(産婦人科医 田中 彩)